サイトアイコン PBWEB.jp

新MacBookのメッセージは、ケーブルからの訣別

3月9日のアップルのスペシャルイベントで発表された新しいMacBook
2011年7月に白いポリカーボネート素材のMacBookが販売終了になってから、3年9ヶ月ぶりにMacBookが帰ってきます。

2008年1月、初代のMacBook Airが発表されたときに、ここで、記事を書きました。
そのときに書いたのが、

Appleのこの製品に込めたメッセージは「光学ドライブはもういらない」です。

そして、それから7年、今回のMacBookの発表。
わたしは、このMacBookのメッセージは、「ケーブルからの訣別」だと思っています。

さて、本題に入る前に、アップルの製品の中でのMacBookの位置づけについて考えてみましょう。
1999年、iBookが発表されたときに、アップルは製品を4つのマトリックスで位置づけて、それまでの煩雑なラインナップから、すっきりした4つの製品に注力しました。
コンシューマー(一般消費者)向けとプロ向け、それぞれにデスクトップとポータブル。

当時は、
コンシューマー向けデスクトップがiMac
コンシューマー向けポータブルがiBook
プロ向けデスクトップがPowerMac
プロ向けポータブルがPowerBook

そして現在は、
コンシューマー向けデスクトップがiMac
コンシューマー向けポータブルがMacBook
プロ向けデスクトップがMac Pro
プロ向けポータブルがMacBook Pro

さらに現在、Mac miniやMacBook Airといった、その隙間にはいる製品もあります。

ここでMacBookが復活しました。
なぜMacBookという名前なのか。MacBook Air Retinaディスプレイモデルという名前でないのはなぜか。
それは、やはりこのマシンをアップルはコンシューマー向けのラップトップとして位置づけているからにほかならないと思います。
実際、アップルのウェブサイトやApple Storeでの並び順も、MacBook → MacBook Air → MacBook Pro です。

価格的にはMacBook Airと逆転していますが、位置づけとしてはエントリーモデルなのです。

そんなMacBookについて、もっとも賛否両論で侃々諤々なのが、ヘッドフォンポート以外には、USB-Cポートがひとつあるだけという部分です。
充電も外部機器との接続もこのひとつのポートで賄うことになります。

これって、何かに似ていませんか?
そう、iPhoneやiPadも、ヘッドフォンポートのほかはLightningポートしかありません。
Lightningポートで充電も他の機器との接続も賄っています。
それで、ユーザーは何をどこに挿していいかわからないようなことにもならずに、すべてLightningポートに挿せばOKという環境で迷わずに使えています。

これは、一般消費者(コンシューマー)にとって、とても楽なことです。ここに繋げさえすれば、何でも使えるというのは、ある意味究極の形です(しかもコネクタの裏表関係なく)。
そして、MacBookは、それを目指した最初のコンピュータということも言えます。

とはいえ、まだ周りの環境は整っていないので、変換アダプタなどが必要になったり、しばらくは煩雑になってしまうこともあるでしょう。
しかし、かつてのiMacがUSBポートだけを搭載して、その結果USB機器の普及の起爆剤となったように、新しいMacBookをきっかけにして、USB-Cの普及が進むことで、格段に楽な環境が揃っていくに違いありません。
(一方、プロ向けには、Thunderboltほか、いろいろな規格が必要なことは間違いないので、MacBook Proなどでは、多ポートのまましばらくは推移するでしょう)

とはいってもしかし、ポートがひとつだけというのはどうなのか?
何でも繋げるなら、やはり2つや3つ付いていたほうが便利に違いないです。

ここで、すっきりした見た目にしたいからとか、アップルはデザイン重視だからかっこよさ優先とかいう論調もありますが、それらは見当違いです。
いや、デザイン重視という点では間違っていませんが、デザインの意味を履き違えています。

日本ではデザインというと、意匠=見た目ばかりだと捉えれがちですが、デザインとは直訳すると設計という意味です。
見た目だけでなく、どうすれば使いやすくなるかだとか、どうすれば間違えずにしかも効率良く目的を達成できるか、さらには、この製品は世の中でどういった位置づけで、どういう人たちがどういうふうに使うのか、そういった製品の使い勝手や使い方をあらゆる面から設計することがデザインなのです。デザイン重視というのは、そこまで突き詰めて考えて作っているということなのです。
ですから、デザインの裏には思想があります。

では、アップルがこのMacBookに込めた思想とは何なのか。
それこそが最初に述べた、「ケーブルからの訣別」だと考えています。

ケーブルに捕らわれることなく、好きなときに好きな場所で使えるコンピュータを目指して作られているのが新しいMacBookではないかと考えるのです。
iPhoneやiPadがそうであるように。

スペシャルイベントの壇上で、フィル・シラーも「すでに無線での環境がじゅうぶんに整っている」と話しました。
たしかに、ネット接続はもちろん、周辺機器もほぼワイヤレスで繋ぐことができています。
わたしの使い方では、いつも有線接続しているのは、iPhoneやiPadの同期くらいなのですが、これも習慣的にそうしているだけで、今やワイヤレスでじゅうぶんです。
その他、いろいろ繋ぎそうなものを考えてみると。

といった感じで、たしかにワイヤレス環境はずいぶんと揃っています。
特に外出先で周辺機器を繋いで作業することは、近年ほとんどなくなっています。

MacBookは、何も繋がないで使うのが基本、どうしても繋ぐならUSB-C、そういう設計思想で作られたコンピュータなのです。
そう、MagSafeさえも省かれたのは、電源も繋がずに使うというメッセージでもあるのです。日中使うには、9時間もつバッテリでほぼ大丈夫だということでしょう。
iPhoneやiPadがそうであるように、寝ている間に充電して、使うときはワイヤレスで。そういう使い方、それがiPhoneやiPadからMacに入ってくるエントリーモデルとしてのありかたというわけです。そうそう、カラーリングもiPhone、iPadに合わせていますものね。

そんな設計思想のMacBook、スペシャルイベントでの発表直後から、わたしはもうすでに買う気満々です。

わたしのように普段はテキスト中心で、すこし写真のレタッチもするくらいといった利用法であれば、じゅうぶんに役目を果たしてくれます。
しかし、それよりも、軽さと薄さの恩恵は計り知れません。15インチのMacBook Proを使っていたときには、外出の際に持っていくかどうかその都度考えていました。その後、11インチMacBook Airを使うようになると「とりあえず持っていこう」とカバンに放り込んで出かけられるようになりました。その違いは、とても大きいのです。
それがさらに軽く、薄くなり、しかもRetinaディスプレイ、表示領域は今より広いMacBook Air13インチと同等の1440×900です。買わない理由がありません。

CPUであるCore Mの力は未知数ですが、CPU自体のベンチマークではMacBook Air (Early 2014) の9割程度らしく、思いのほか速度も出ています(とはいえ、ベンチマーク結果がそのまま体感として現れることはほぼなく、1割程度では体感上の変化は感じられないと思います)。
実際に使ってみると、SSDなどのI/O周りの速さが体感にかなり影響を与えるということは、2010年にMacBook Airを初めて使ったときに経験していますので、普段使いにおける速度についてはまったく憂慮していません。
たしかにムービーのレンダリングなどの重い作業では違いはあるでしょうが、そういう作業は外出先ではまずしないですし、するなら別のマシンで。

余談ですが、アダプタに電源と外付けディスプレイ、外付けキーボード、マウス、ハードディスクなどの周辺機器を繋いでおいて、自宅に帰ったらUSB-Cポートに一回で繋いで便利に使うこともできますが、それはきっとアップルが推奨している使い方ではないのでしょうね(笑)
さらに余談ですが、USB-Cは(MagSafeやLightningと違い)汎用規格なので、サードパーティからいろいろ面白いアダプタや充電器、さらには外付けバッテリなども出てきそうで、それも楽しみです。

最後に、2008年、初代のMacBook Airが発表されたときと同じ文章で締めくくりたいと思います。

既存のマーケットに合わせてものを作っていくのではなく、革新的な製品やサービスを世に出し、それをきっかけにして、周囲をまきこんで全体を変化させていく。
そんなアップルのものづくりのひとつのマイルストーン的なプロダクトが、今回のMacBookと言えるのではないでしょうか。

モバイルバージョンを終了